【楽演祭VOL.3】スキマスイッチ×和田唱(TRICERATOPS)講義全文公開
スキマスイッチの大橋卓弥さん、常田真太郎さん、そしてTRICERATOPSの和田唱さんを迎えての楽演祭VOL.3の講義。 テーマは「音楽プロデュース」について。一口に「音楽プロデュース」といっても関わり方は様々。 スキマスイッチ、和田唱さんにおいての音楽プロデュースについて訊いてみました。
――というわけで、本題。スキマスイッチは『re:Action』で和田さんにプロデュースをお願いしたわけですけど、デビューする新人とかではなく、完全に完成された曲をもう一回プロデュースするということですよね。
和田:そうですね。そのアルバムの趣旨が、スキマスイッチのこれまでのアルバムの曲をセルフカバーするのじゃつまらないから、いろんなミュージシャンにプロデュースを頼もうということなんですね。で、僕が仕事引き受けた直後に大橋くんに会って、どうしよう? 俺どんなふうにプロデュースすればいい?って言ったら、なんでも好きなふうにしちゃっていいですよ、って言われたんです。なんならメロディも変えちゃっていいですよ、って言われて。いやぁ、メロを変えるのはないでしょう!って。だって曲変わっちゃうから。いや、それでもいいですよ、メロ変えてもいいからとにかく唱くん流にしてください、って言われたんです。
――ずいぶん思い切った提案ですよね。
大橋:だから新しい曲を誰かにプロデュースしてもらうっていうよりは、1回自分たちで自分たちなりの答えを出したものを、ほかの人が手掛けるとどんな変化が起こるのか、っていうのは一番わかりやすいじゃないですか。一度リリースした曲をメロディと詞だけピックアップして、唱くんだったら「ここの歌詞はいらないんじゃないの?」とか、「ここのメロディはこっちのほうがいいんじゃないの?」とか言うんじゃないかなと思って。他のアーティストさんにもみなさんにその説明をしたんですけど、だから全然メロディを変えてもらっても、例えばラストの3番があるとしたら、3番は丸々いらないんじゃないの、もっとこれは短い曲のほうがいいよ、とか、そこも含めて提案していただいたんです。その代わり、出来上がったものに対して歌は歌い直したい、っていう。だからシンタくんなんかは、もちろんレコーディングではピアノ弾いてますけども、シンタくんを使うも使わないもプロデューサーの自由ですから。そういうコンセプトで『re:Action』ってアルバムを作ったんです。全部で13曲……。
常田:最初は12曲お願いしたんですよ。
大橋:で、その中で何曲くらい?
常田:6曲か7曲くらい、ウォッチって役職をもらいました。
――(笑)。
常田:見学。何もしてない。
大橋:見学って書くのもね、クレジットに。だから本人が自分で、クレジットの表記をウォッチっての考えたの。ウォッチって立ち位置でいいからって言うから、好きにしたらいいんじゃないの?って。
常田:「マリンスノウ」もウォッチ。手拍子だけしたかな?
和田:あぁ手拍子した!
――何もしてないじゃなくて、ウォッチをしていたと。
常田:その代わり、一応全部を見させてください、とはお願いしたの。歌を歌ってる時にどういうプロデュース、どういうディレクションをするのかなと思って。
――なるほど。スキマスイッチは、歌詞と曲ができた段階から最終形までを全部自分たちでやってますからね。もしプロデューサーが入っていたらきっとこれは歌詞を直す人もいるだろうし、曲構成を直しちゃう人もいるだろうし。
和田:でもそれをいわゆる職業プロデューサーに頼まなかったのが面白いですよね。民生さんだったり小田和正さんだったりとか。
常田:GRAPEVINEとか。
大橋:オリジナルラブの田島貴男さんとか。あと、中にはインストバンドのSPECIAL OTHERSとか。歌ものは基本的にはやらない演奏だけ、楽器だけ、インストゥルメンタルのバンドにもお願いして。その時は、歌じゃなくてもいい、歌わなくてもいい、だってインストバンドにお願いしてますから。詞はいらない、って言われたら、メロディだけ引っこ抜いてもらって、例えばギターの人が弾くとかね。それでもいいなと思ってたんです。けど、スペシャルアザースは、歌をうたってほしいってなったので、プロデューサーの言うとおり歌ったんですけど。それくらい振り幅をもってその作品は作っていったんですよね。
和田:だからスタジオでも二人、後ろのソファーに座ってるんですよ。新鮮でしたね。
大橋:もうひとつ二人で楽しみにしてたのは、ほかの人のレコーディング現場ってなかなか見ないんですよ。だから、それは見させてもらいたい、っていう。
――そうなんですよね。ミュージシャンごとにレコーディング現場って全然違うじゃないですか。
大橋:全然違いますね。
常田:方法論がありますからね。特にバンドは、僕らバンドじゃないからより興味あったし。
大橋:その代わり、レコーディング現場ってある種なんて言うの? 鶴の機織りみたいな、こっそり閉じこもってやってるような、だから見られたくないって人もいるだろうなと思って。そういう人にはもちろん、もしよかったら見せてください、って。でも中には、真心ブラザーズさんなんかは、もう行ったらオケが出来上がってて。そのオケを作ってるところには来ないでくれ、って。それは意図として、見られたくないってうよりは、オケが出来上がって最初に聞いたインパクト、印象で歌を考えてほしいってことだったんですよね。
和田:あぁ、そういう意図があったんだね。で、僕らはプロデュースの依頼をいただいて…。
――「マリンスノウ」を和田さん流、トライセラ流に再構築すると。
和田:そうですね。普段僕は3人組のロックバンドなんですけど、僕らギター、ベース、ドラムって編成なので、ピアノどうしようかなぁって思ったときに、ま、あえてスキマスイッチと違うものにしたほうがリアレンジの意味があるので、シンタくんごめん、ウォッチで!って。
――(笑)。
常田:後ろにいた。
和田:後ろに座っててもらって、で、楽器は僕らTRICERATOPSで全部やらせてもらって。あ、違う、ピアノも弾いたんですよ。弾いたんだけど、真太郎くんが弾くとスキマ色が強まっちゃうんで、真太郎くんごめん、俺が弾くわ!って言って、僕が簡単なピアノをね。
――これは譜面もご提供いただいたんですけど。
和田:これはシンタくんが書いたやつ?
常田:僕が書いたやつです。
――これはコード進行とかを変えたりしたんですか?
大橋:ちなみにみなさん音源は聞いてないんですもんね?
和田:じゃあまず元の「マリンスノウ」のほうを聞いてください。バラードですよ。
常田:生徒のみんなが小学生のころの歌ですね。11年前かな、だいたい。
和田:失恋の歌ですね。悲しい歌ですね。みんな1999年生まれ? マジで? もう俺デビューしてたんだけど。そういう世界か。
常田:これ2007年の曲だから。
和田:そうだよねえ。じゃあ俺が早く子供作ってれば娘でも全然おかしくないんだ。よろしくね。
常田:この世代が大事ですもんね(笑)。
大橋:これ余談っていうか裏話ですけど、「マリンスノウ」のオリジナル、僕らのほうの音源の歌は、ツアー中に作ったんですね。
常田:そう、思い切りツアー中で。
大橋:で、レコーディングした時にツアーとツアーの合間で、やっぱ喉をずっと酷使して使ってるんでガラガラだったんですよ。で、ガラガラで歌を録る日にレコーディングスタジオに入ってシンタくんも聞いてて、声、ガラガラだよね?ってなって。けど、歌詞の内容が失恋の歌で、自分が海の底にすーって沈んでいくような雰囲気なんですね。で、その沈んでいく時に上を見上げると水面が上にあるんですけど、微生物、プランクトンの死骸とかがキラキラ光って――、それをマリンスノウって言うんですけどね。
常田:雪に見えるんですよね。
大橋:そうそう。で、それが落ちていく様と、今の自分のガラガラの声は合うんではないかと。だからあえてその声のままレコーディングしようって思ってレコーディングしたのがこちらです。
和田:そんなガラガラだっけ、これ?
《原曲の「マリンスノウ」が流れる》
常田:コードが落ちていくのも、沈んでいくところを表したくて。
和田:さすが、さすがセルフプロデュース。ちょっとハスキーだね。
大橋:これがスキマスイッチの、僕らが出した答え。これをTRICERATOPSがやるとどうなるか。
和田:がっつり、コードを減らしちゃったんですよ。このオリジナルの「マリンスノウ」は結構コードがある。ジャーン、ジャーン、ジャーン、ジャーン、どんどん変わっていくんですけど、僕が思い切ってサビまでたった2つに減らしました。結果、メロディも変わりました。
《TRICERATOPSプロデュースの「マリンスノウ」が流れる》
――かなり変わりましたね。
和田:そうなんです。思い切って。
大橋:だから、例えば僕らがメロディと詞を書いて唱くんに、トライセラトップスに、こんな曲できたんですけどプロデュースはどうしたらいいですかね?って渡したら、もしかしたらこういうアレンジをしたのかもしれないですよね。
――コードを2つまでにしたのは、どうして?
和田:まず1つは、スキマの原曲とやっぱり変えなきゃリアレンジの意味があんまりないよな、ってことと、自分達の曲の多くがかなり少ないコード進行で作るっていうのが割とこだわってやってたりするので、だから、原曲とすごく変えるってことと、自分達らしさを入れるってことですね。
――スキマ側のお二人は、このアレンジで行くっていうのはどうでしたか?
大橋:まずは唱くんに、その話をオファーして、メロ変えていいよ、って言って。でも唱くんは、いやメロディは変えちゃダメでしょ、って言ってたんですけど、でもあがってきたデモ聞いたらメロディ変わってたから(笑)。やっぱ変えるんじゃん!と思って(笑)。
――(笑)。
大橋:けどね、やっぱTRICERATOPSの3人が作り出すサウンドっていうのは、それぞれ、ほかのアーティストさんもそうだったんですけど、その人の曲みたいになるんですよ。だからTRICERATOPSの曲になる。この時なんかは、みんなと話してたのはね、ジェフ・リンっていうエレクトリック・ライト・オーケストラの人がね、ビートルズの作品なんかもアレンジしていて。
常田:『フリー・アズ・ア・バード』だね。
大橋:そのへんのテイストも。もちろん唱くんもビートルズ大好きだし。
和田:そう、最初にELO――、エレクトリック・ライト・オーケストラのリーダーであるジェフ・リン。そのジェフ・リンも自分のバンドのプロデューサーなんだよね。だからELOもセルフプロデュースだね。そのジェフ・リンって人がね、なんて言うのかな、プロデュースするとね、いつもドラムがね、同じ音なの。ドゥ、サッ、ドゥ、サッって。で、そのイメージで、あの感じなんだよ!って言って、そういう感じにしたつもりです。
大橋:なるほど。あのジェフ・リンのドラムのサウンドを真似してるアーティストは日本でも結構多いですよね、たぶんね。
和田:あれやっぱり独特で、ちょっと真似したくなっちゃうサウンド感があって。
常田:それこそ僕が最初に知ったのは、小林武史さんがプロデュースしてたMy Little Loverの曲で、ジェフ・リンがやりたいってみんなで言って。
和田:で、覚えてるのが、そのスタジオで二人はソファーに座ってて、ジェフ・リンのあの感じにしたいけど、あれってこんなふうにこんなふうにすればなるのかなぁ?なんて僕らであれこれ言ってたんですよ。そしたらシンタくんが、それだったらドラム2台使えば、と言って。要は、かぶせる、みたいな。
大橋:ダビングしてね。
和田:そう、ダビングで、って教えてくれて。
大橋:同じことを2回やる。多分2回どころじゃないですよね、ジェフ・リンは。
常田:いや、でも、基本的には2回みたい。
大橋:ほかの楽器もだって…。
常田:そうそう、楽器はね、ギターとかは同じ弾き方で4本とかね。ドラムに関しては、左右に置くってのが多いみたいだね。
和田:同じことを2回たたいて、重ねてるんだって。知らなくてね、あの時は悔しかったですね。
――(笑)。常田さんは、ジェフ・リンがどういうふうに作っているとか研究したりしてるわけ?
常田:そのMy Little Loverの曲で、「12月の天使達」って、「イエス」ってシングルのカップリングなんですけど、その歌すごい好きで、どうやって作ってるのかなって調べてたら、当時まだネットがそんなに普及してない時代なんですけど、インタビューがちょうど掲載されていたんです。そのインタビューにジェフ・リンのことが出てきて。ELOって、当時まだ、僕音楽の専門学校から卒業したくらいだったんですけど、そこで、たしかELOって授業で取り上げたなと思って、で、ジェフ・リンとはっていうのをいろいろ聴き漁って、先ほど言ったドラムのサウンドってのも……、ドラムのサウンドかわからないですけど、ジェフ・リンって面白いのが、1枚やったら終わるんですよ基本的に、プロデュース。あんまり連続してやらないみたいで。多分サウンドが個性的すぎるのかな、っていう。
――なるほど、全部がジェフ・リン色になっちゃうから。
常田:だからだいたい1枚くらいで。で、ジョージ・ハリスンくらいはダーッとお願いしてるみたいですけど。バンド組んだりとか。トラヴェリング・ウィルベリーズやったりしてね。
――意外に日本人でもジェフ・リンに影響受けて、あれっぽくしたいって人多いですね。
和田:だから、民生さんプロデュースのPUFFYのデビュー曲「アジアの純真」なんて、もろELOだった。アジアの純真。皆さん、知ってます?
常田:シンセの音も多いんですよね。
和田:そっか、あれ97年、生徒のみなさんは生まれてないのか!
大橋:生まれてないのか!
――このシリーズは、前にフジファブリックの山内さんも来てもらいましたけど、彼もすごいジェフ・リン好きだって。だから、世代を超えていろんな人が好き。
常田:「アジアの純真」、音とか出せるのかな?
和田:めっちゃELOだよね。
大橋:その当時、奥田民生井上陽水ってユニットで二人で活動してた流れで、曲は民生さんで詞は陽水さんかな。
和田:民生さんはジェフ・リンがいたELOのファンなんだよね。
常田:ビートルズを聞いてファンになったのか、それはどっちなんだろうな?
和田:ジェフ・リンはものすごいビートルズファンなんだよね。
常田:そうです、大好きで。
《「アジアの純真」流れる》
和田:もろELOだね。
常田:ですね。
大橋:そう考えるとユニコーンもこっちだね。
和田:あぁ、ユニコーンも。
――ジェフ・リンとかELOってキーワードを聞いて、PUFFYとか民生さんとか、それこそさっきのマリンスノウとかいろいろ聞き返してみると、おっ!ここだ!みたいな発見があると。
常田:ありますよね。
和田:ジェフ・リンってのはちなみにね、ひげもじゃなんですよ。ちょっとアフロっぽい感じでね。
大橋:ジェフ・リンは遊び倒してなかったですか?
和田:ジェフ・リン絶対真面目だと思う。
――(笑)。
和田:あの顔は遊び人じゃないよ。あれは音楽オタク。ジェフ・リンは音楽オタクだよ。だってアフロにひげだったらシンタくんと一緒ってこと?
大橋:それは偏見でしょ(笑)。
和田:シンタくんの初期に恰好でサングラスしたらジェフ・リンだよ。
大橋:確かに。
TRICERATOPSプロデュース
――あとせっかくなんで、コードが変わったっていうのを。常田さんと和田さんに披露してもらえればと思いますが。
和田:あれってキーはA?
《「マリンスノウ」を和田さんが演奏》
常田:イントロがまったくもう、こういうところから入ってるんで。
和田:あぁそうだよね。
常田:唱くんが言ってた頭のコード。
大橋:頭がかなり変わってるんだよね。
常田:それが好きで。
和田:はいはい、これでしょ? イントロにそれが入ってて、それにインスパイアされて、それを使おうと思って。それ! なんていうコードですか?
常田:A分のFディミニッシュ。
和田:A分のFディミニッシュ。
常田:僕はちなみに、卓弥コードって読んでます。
和田:卓弥コードっていうの?
大橋:この響きが好きなの。
和田:じゃあ俺のやったアレンジは卓弥コードなんだ。卓弥~。
常田:曲作ってるとよく卓弥に、あれ出してあれ出して!って言われて。
大橋:ここになんか響きがほしいんだけど、なんなんだろうなぁと思うと、たいがいその音なの。キーは違うけど。
常田:卓弥が使うときは、みんなドミナントとか習ってるよね? トニックドミナントのときのドミナントのコードの半音下のディミニッシュつけるとこれ。でも、唱くんはそれを1度で使ったっていうね。
和田:難しい専門的な話ですねえ。
――昭和音大ならではですね。
和田:そっかそっか、今ついていってないの俺だけだな。
常田:普段僕ら5度で使ってるんですけど。
大橋:やっぱり、なんとも浮遊感がある。
和田:浮遊感あるね。
――いわゆる卓弥コードの曲における使い方が違ったんですね。
常田:そう、だからそこびっくりして。頭で使ったんだ、と思って。
――常田さんはそれをどちらかというと、展開させる途中で使ってて。
和田:そうそう、隠し味に使ってたの。
大橋:トニックに戻る直前に使うことがウチら多いですよね。
常田:そうそう。この頭のここでいけば、僕はこっちにいってるんですけど、もしくはこっちの、Aだから、こうですね。Dにいくのかな? で、戻った、ってなって。
和田:そうですね。僕はだから…。
――しかも、それを往復したと。
大橋:だから、タラララララララ~って行ってもよかったのね。
和田:そうそうそう。たしかに!
大橋:僕は孤独の海~放りだされて~
和田:それでもよかったよね。
大橋:ほんとのメロディなんだっけ?
和田:これね、だんだんほんとがわからなくなってくる(笑)。
大橋:唱くんが、イントロに使われてたコードにインスパイアされたっていうのが、なにかしら共通点が。なんの根拠もなくこれにいったわけじゃないところが、やっぱり面白いところで。
和田:そうそうそう。卓弥をちょっとここで感じとったんだね、俺。だからオリジナルはとにかく、コードが1小節ごとに変わっていく。
《和田さん実際に演奏》
和田:これだけコードが変わるんですけど、僕のプロデュースでは…《演奏》。2コードにしてしまう。
――コードが変わって、メロディも変わる?
和田:ほんとは変えたくなかったんです。ほんとはメロディは同じで、コードだけそのコードにしたかったんだけど、これは音楽的に無理でした。どうしても当たっちゃう。だからちょっと変えさせてもらいました。大橋君、メロ変えていって言ってたわ、そういえば、と思って。
大橋:そういうのはなんか、例えば、コードから導かれたメロディであればきっと素直にね、そっちの方向に行けるんだけども、最初に僕らが作ったメロディがあるから、そうするとどうしてもぶつかってきちゃうからね。不協和音を避けるためにメロディをちょっと変えるけども、でもそういうのって、なんて言うのかな、メジャーな曲をマイナーにするのも、ほんの少し変えるだけでこんな雰囲気変わりますよ、とか、ああいうのもだから、コードを変えたいからメロディを変えるときに、でもメロディを変えたくないなぁって葛藤とかね、そういうのもあるわけで。
和田:あるねえ。
大橋:唱くんの場合は、そのコードでいきたかったわけだから。あれだけメロディを変えないでおきたかったのに。
和田:ほんとはね。僕はね、束縛して曲作るのが大好きなの。束縛作曲法ですよね。
――これ2つしか使わないっていうルールを最初に決めちゃう。
和田:決めちゃうんです。で、それによって、「♪体が~沈んでいく~」。ごめんね俺が歌って。
――(笑)。
和田:ここにいった時の…、サビは思い切りオリジナル通りに展開しようと思って。その落差を楽しんでもらえたらな、なんて思ったわけです。
常田:とはいえ、このFディミニッシュがバンバン出てくるわけですよ。さっきはA分のだったんですね。それは実は原曲にはあんま出てこなくて。ディミニッシュを効果的にすごい使ってるなと思って。
――なるほど。これは意外にと言いますか、スキマスイッチの曲の特徴をすごくつかんで、そこを拡大したような。
常田:デフォルメに近いですよね。
和田:だから僕自分の曲では実はこのコード、あんまり出てこない。
常田:ロックっぽくないんですかね。
和田:そうかもね。
――ちなみに、このコードと曲が出来上がって、アレンジはどのように?
和田:アレンジは、うんと、スキマスイッチなのでスキマのあるアレンジ(笑)。今、強引に言いましたけど。
――(笑)。
和田:僕はスキマの、スキマってのはほんとの隙間ね。隙間のある例えばベースラインとかがすごく好きで、例えばこういうフレーズがあったとして《ギター》、そこに対してベースが、ボボボボボボボボボ~っていうのは割と普通ですけど、僕は例えば、ボ・ボ ボ・ボみたいな、ちょっと隙間のあるのが好きなんです。それによって《ギター》このギターも…《ギター2本演奏》これだとやっぱり同化しちゃうんですよね。《隙間のあるベースラインで演奏》こうすると、両方が聞こえてくるわけですよ。グルーヴが生まれる。だから僕はそういうちょっと隙間の、間引くフレーズってのがすごく好きで、だからそれも僕らバージョンのマリンスノウではそこも意識しました。とにかく、林ってウチのベースに、ストイック、ストイック、ストイックに弾かないで、って。ババババン、ババババン、ババババン、はい止まって!くらいに。それは終始だね。ずーっとそうだよね。
常田:歌が入るとこの、どこからベースが入るかをすごくバンドでしゃべってたのを覚えてます。どこから復活するのかを。「♪体が~」のとこじゃない、もうちょっと前からいきたい、ってのをしゃべっててね。
大橋:やっぱりTRICERATOPSってスリー・ピースでやってて、3人しかいないわけじゃないですか。だから音の短さとか、音が入ってくる場所とか、そういうものをすごく意識していかないと、全部が同じようなアレンジになっちゃったりとか。
和田:そうそうそう。
大橋:だからきっとアレンジ方法にこだわりが。
和田:こだわるようになったんだろうね。
大橋:それが例えば、キーボードもいて、ギターがもう一人いてとかだと。
和田:また変わってきただろうね。とにかく、間引く癖はめちゃくちゃついてますね。
スキマスイッチアレンジの「if」
――「マリンスノウ」があって、今度はトライセラの「if」をスキマスイッチがアレンジする。これは音源化されてないけど、ライブでアレンジしたという。これの譜面も持ってきていただいたんです。
和田:この譜面は誰が書いたの?
常田:これは売ってるやつじゃないですか?
和田:あぁ売ってるやつか。いや、俺、譜面書けないからね。
常田:これは僕がそのライブの時のために書いたやつ。
大橋:そもそもここにいるみなさんは、こういう譜面は見たことありますか? コード譜。じゃあTAB譜が書いてあるものばかり見てるわけではないということだよね。こういうバンドスコアも見たことある? 基本的には僕らのやってることって、コードが上に書いてあって、あとは自由演技だから。
和田:そうだね。
大橋:よっぽど、ここはこうしようよ、ってその場で決まっていけば、そこは決めができたりとかするけども。
――そこはオーケストラとかブラスバンドみたいに全パートの演奏内容がバチっと決まってる譜面とはまた違う。
常田:違いますね。
大橋:これはコード的にはそんなに原曲からね、変わってないんですけども、演奏の仕方をちょっと変えて。
――じゃあ「if」の原曲を…。
和田:「if」の原曲ねえ、僕ねえ、なんていうかそのぉ、今だったらこうするのになぁ、っていうのオンパレードなんですよ。あるよね、若いときのレコーディングってそういうのない?
常田:ありますあります。「if」は何年ですか?
和田:これは99年、あっ、生徒のみなさんが生まれた年だよ!
常田:20年前。
和田:そっかぁ…。
常田:若気の至りで。
和田:今だったらこうするのに、のオンパレード。ちょっとソウルミュージックを意識して作ったんですけど。
大橋:レニー・クラヴィッツみたいなイメージはあったのかな?
和田:あぁ、そうだね。レニー・クラヴィッツだと思えばいいんだ、これ。
大橋:僕が最初「if」聞いたときに、レニー・クラヴィッツの雰囲気があるなぁと思ったんですよ。
和田:ロックなソウル。ロックソウルだと思えばいいんだ。
《和田さん実際に演奏》
大橋:ちょっとレニクラっぽい。
和田:レニー・クラヴィッツはみなさん知ってます?
――知らなかったらメモって帰ってYouTubeとかで聴いてください。
和田:クラヴィッツですからね、ウに点々。
大橋:レニー・クラヴィッツもだから、いわゆる隙間のあるアレンジが結構多いですよね。
和田:そうだねそうだね。
大橋:ほんとにおしゃれなコード使ってますよね。
和田:ちょっとね、おしゃれにいってみようと思ったんだよね、この時ね。
――和田さんは楽譜を書いて曲を作ってるわけではない?
和田:僕ねえ、全部、こここうで、そうで、違う違う、そこはこう、って、口です口。
――頭の中には鳴ってる?
和田:もちろんもちろん。頭の中にはちゃんとありますけど、それを、バンドで演奏する時は、もっぱら口ですね。♪Aマイナ~、Dマイナ~、って。
大橋:僕もどっちかっていうとそういうタイプです。シンタくんは、それこそ学があるんですよ。
和田:シンタくんはインテリだから。ジェフ・リンだから。
大橋:(笑)ジェフ・リン。それこそ専門学校にも通って、トニックだ、とか全部習ってね。
常田:一応ね。もとに戻るって意味だから一応。1度だから。
和田:え? そういうこと? おっさんがこうやって頭につけるやつ。もとに戻すって意味なの?
常田:5度くらいまで来た人が1度に戻したいってのがトニックだから。
大橋:それとトニックウォーターが……。
和田:おっさんが頭につける、スーッとするやつトニックですよね? リセットするってこと?
常田:リセットじゃなくて、素っていう。何も混ざり気のないってこと。
大橋:いや、混ざり気あるやん、トニックウォーター味ついてるよね?(笑) でもね、「if」は当時、1999年、僕がそれこそ東京に出てきたくらいかな? 高校3年生くらいだったかな? その時に聞いて衝撃を受けたの。
――どういう衝撃だったんですか?
常田:出てきたすぐくらいか、99年。
大橋:だってね、この、「♪夢を築きあげる~ためにここまで歩いてきた~」。って、この、ずーっと共通の音でいける。ずっとこれなんですよ。共通音がずっといけるコード進行の中で、こんだけ複雑なメロディになるわけでしょ。で、サビなんか、ここ7thが入るわけですよ。こんな不安定な。これはね、センスでしかない。頭で考えてできるものじゃない。
和田:ほお。今言われて、そうだったんだ、って、今気づいたことがいっぱいありましたね。
常田:4度と5度がマイナーになってるのがほとんどないんですよ。A♭が1度なんですよ。この曲の中では。
和田:1度ってのはつまりトニックのことですね。
常田:で、D♭とA♭が4度と5度。だから、これがサビ前のCの前のコードが、E♭分のB♭マイナー7。これが一応ドミナントって呼ばれる5度の同じ仕事してる。で、Aに行くはずが、いかないんですよ。普通はA♭に行くはずなんですけど、4度マイナーに行くっていう。すごいんですよ。
大橋:スキマスイッチ、マイナー7♭5ってのはわかりますか? これね。1度に対してマイナー7♭5があって、そっから、メジャーにいくでしょ? 例えば僕ら、よく使われるタイプで、こういう使い方、Cで言うと…。
和田:よくあるね。
大橋:ここのメジャー7が、これはセンスでしかないね。
和田:いや、これ、実はモータウンのマーヴィン・ゲイとタミー・テレルのデュエットのやつあるでしょ? あれのAメロが、同じなんで。
大橋:パクってんだ!
和田:そう!
――(笑)。
和田:だから思いっきり俺の中でモータウン。さっきのベリー・ゴーディね、ダイアナ・ロスと付き合ってたね(笑)。とにかくモータウンレーベルの曲にはこういうおしゃれなコード使った曲がいっぱいあって、俺はとにかく、あの曲がすごい好きで、なんかあんなような曲を作りたいってずーっと1999年に思ってたわけですよ。それでずーっとこうしてるうちに、もう逃れられなくなってきて。で、わかった、コード進行はそのままでいい、メロを変えようと思って。で、♪夢を築きあげる~ためにここまで歩いてきた~、って。だから最初の8小節はもう拝借して。
常田:拝借、大事大事。
和田:そっからは俺のオリジナルで。
常田:変えた!
和田:知ってます? 曲ってコード進行だけなら、ビートルズもなんでも。メロが一緒じゃなきゃいいんだよ。
常田:パクってるわけじゃないですよね。
大橋:それはでも、音楽を1曲でも聞いてしまった時点で、なんの影響も受けないなんてことはあり得ない。
和田:あり得ないあり得ない。音楽好きであればあるほど、いろんなものから影響を受けますからね。
――AをそのままやったらA’にしかならないけども、そこにBやCやいろいろ入ってきて。
和田:そうですね。あとは、リズムだったり楽器の編成が違くなれば、かなり違うものになる。
常田:ロックバンドがこれやるってのもまたすごいですよね。
和田:今いいこと言ってくれた。これは、ロックバンドがあまり使わないコード進行なんですよ。
――ロックバンドは基本的にドミナントは、いわゆる役割をもったコードはほとんど3度5度で、パワーコードで済ますってのが多い。
和田:野蛮なね、野蛮な世界ですよね。ロックのこの。
大橋:おしゃれなコードを使うことも、アンチな時代もあったんじゃないですか? パワーコード一発でってのが。じゃあここにメジャー7、やらないみたいな。
常田:それがだからAORの始まりだから。
――だから70年代のパンク、セックス・ピストルズとか、そのあたりはそれの前にプログレッシブロックとか、やたら複雑化してオーケストラを入れてみたいなのの反動。
和田:そうですね。だからそういう反抗心、おしゃれなコード使うことへの反抗心はあったけど、でもやっぱ好きだから、ミックスしようと思ったの。
常田:ビートルズはそうだもんね。
和田:ビートルズもそうだもんね、やっぱりね。
――例えばポール・ウェラーなんかも、オリジナルパンクでTHE JAMとかやってたんですが、スタイル・カウンシルでどんどんおしゃれになってったりして。
和田:実は持ってるもんなんですよね。人間には両面なきゃダメなんじゃないですか? ちょっとこう、なんていうの? 激しさとやさしさってのは両方もってて初めてこう、奥行きのある人間になれれるんじゃないかなぁ、なんて僕は思っちゃったりしますけどね。
常田:めちゃくちゃメモってる(笑)。
大橋:今のメモるとこなのかな(笑)。
和田:だから、この曲はどっちかって言うと、ソフトなおしゃれな面を強調したけど、ただ、さっきサウンド聞いてもらってもわかるかもしれないですけど、ギターがすごい歪んでるわけ。あそこちょっと汚しを入れたっていうか。だからいつもそれは意識してますね。きれいすぎるな、と思うと音で汚すとか、両面入れるようにはいつもしてるかなぁ。
――ちなみに「if」の曲があって、スキマスイッチがライブでやるとなったら、ま、コードはがっつり変えたわけではないと。
大橋:コードは基本一緒ですね。
和田:あ、原曲はピアノが入ってない。
常田:ピアノとかオルガンとか。メンバーにいるんで。僕らサポートミュージシャンを含めると9人でやってるんで。その時のツアーとしては7人ですね。ブラスとかもあったんですけど、それを7人でどう演奏するかで。同じようにやるには人数省けばいい話なんですけど、そうするとやっぱ似てきちゃって。で、卓弥としゃべってて、じゃあ7人でやるサウンドってどんな感じなんだろう、って。やっぱ僕らAORとか、特にみんながジャズできるんで、フュージョンとか。どちらかと言うとよりおしゃれな方向をデフォルメしてみようか、っていうところはあったんですが、唱くんと一緒にやりたいってとこなんで、結局唱くんもフィーチャーしたいってとこでライブでは1番まるまるピアノ1本でいきましたね。
和田:あぁ。俺がそこでピアノをバックに歌って。
常田:で、ハモってきて。前半は3人でやって、そこはスキマスイッチがライブでやるよっていう、らしさをちょっと出したいねっていう話をして。で、バンドが入ってきたところからおしゃれなサウンドになるっていう。
――そのへんの曲展開、構成は、常田さんが?
常田:二人でですね。ピアノにしようよ、とかお互いがアイデア出し合って。
――原曲があって、そこからやれることとか、この曲をこういうふうに見せてみようとか、山ほどアイデア出てくる感じなんですね。
和田:やっぱそれは自分たちでプロデュースできる人の強味じゃないですかね。
大橋:自分たちの楽曲を自分たちのライブで自分たちでリアレンジすることもあるんですけど、例えば、カバーをやるときなんかは、この曲はもう、このアレンジとかこのコードを変えたらもうこの曲じゃなくなっちゃうよね、とか、ここがこの曲の肝だ、みたいなところは変えないけど、少なからず、俺だったらこうやるのになぁ、とか、あるよね。そういうものを二人で話し合って、じゃあこの曲をちょっとポリスにしてみないか、とか。
和田:ここ俺だったらこっち行くのに、とかあるよね。
――それを自分の好み、自分のしっくりくるほうに変える。
常田:印象として、当時、20年前、卓弥が自分の家に遊びにきたときに、今しゃべってた、このコードがロックバンドなのにこんなにおしゃれにやってんだよ、ってしゃべってたのをすごい覚えてたので。
和田:おぉ、ありがとう。光栄ですね、今日はね。
――20年前の興奮みたいなものが。
常田:そうそう。だったらその、おしゃれだよね、ってことを逆に僕らとしてやってみないか、って、印象として変えたんですよね。