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木村カエラ×ホリエアツシ(ストレイテナー)楽演祭Vol.7 レポート

完全に神回!? 木村カエラ×ホリエアツシ(ストレイテナー)の 貴重なコラボセッション・対談講義が実現!

約1年ぶりの開催となった「楽演祭」。
木村カエラとホリエアツシ(ストレイテナー)を迎えた今回が7回目となる。
このイベント、実は普通のライブイベントとはちょっと趣向が異なる。そもそもの成り立ちが、別冊カドカワ(KADOKAWA)×昭和音楽大学×A.C.P.C.が手を組み立ち上げた、というところからも分かるとおり、エンタメ+教育による〝エデュテインメント〟を通じて〝音楽の楽しさ〟を体感できるライブ・イベントになっている。
毎回2組のアーティストを迎え「音楽をテーマにした対談講義」と「ライブ・パフォーマンス」を昭和音楽大学内にて実施しているのが最大の特徴だ。


まずは、第一部のトークパートからスタート。
司会進行を務めるのは音楽ジャーナリストの柴那典氏。
プロのジャーナリストの視点から普段なかなか聞くことのできない創作の裏側が知れるのもこのイベントならではの楽しみだ。

まずはお互いの「他己紹介」から始まったトークには8つのテーマが用意されており、話の流れに沿って展開されていく。
デビューがほぼ同じという2人は、音楽的バックボーンが90年代ロック/パンクシーンから直接影響を受けているということで関係性も近く、今回の共演が実現した。
テーマの中で一番盛り上がったのが、「歌詞について」。お互いに数ある楽曲の中から2曲をピックアップして、その曲の作詞にまつわるエピソードを語った。


木村カエラが選んだのは、「リルラ リルハ」と「Butterfly」というヒット曲2曲。
前者の歌詞には意外なきっかけがあったことを明かしてくれた。

「私の友達の知り合いが、ある日自分で命を絶ってしまったんです。私にとってそれは本当に衝撃で。その子に伝えたかったことを歌詞にしたんです」

歌詞に出てくる〈私のおまもり お花 マーガレット〉というフレーズは、カエラ自身が大切にしているもので、そういうものがあるだけでも人が辛い時の救いになるのではないかという切実な想いを込めたというエピソードを披露してくれた。

また、ウェディングソングの定番として知られる「Butterfly」は、実際に彼女の親友が結婚をするというタイミングで作ったものだと明かしてくれた。
他にも同曲の歌詞に秘められたとびきりのエピソードは会場を大いに沸かせた。


一方ホリエアツシがセレクトしたのが「REBIRTH」と「シーグラス」。
前者は2005年発表の初期の楽曲で、後者は2016年のもの。この間約10年にあったアーティストとしての変化を自ら指摘してくれた。

「『REBIRTH』の頃はまだまだ経験が足りなくて、自分の歌でこうなってほしいなんて思うのはおこがましいと思ってたんですよね。だからここで使われている言葉も抽象的なイメージが多いんですよ」

 しかし、「シーグラス」では「やっと自分のためだけに書くのではなく、ちゃんと人に聴いてもらって、その人の感情が動いたり、そこを狙って作れた曲なんですよね。だから言葉も身近にある具体的なものになっているんです」
 
柴氏からは、確かに「シーグラス」は映像的な歌詞だという指摘があった。

トークパートの最後には、昭和音楽大学の学生から木村カエラに「happiness!!!」の歌詞の創作の裏側についての質問があり、まさに熱気に満ちた“講義”のようだった。

第二部のライブパートではカエラが好きな
ストレイテナー楽曲「灯り」を2人だけでパフォーマンス


第二部のライブパートはホリエアツシ(ストレイテナー)からスタート。
アコギ 一本の弾き語りスタイルだ。

1曲目は「スパイラル」。くっきりとした情景描写がホリエの澄んだ声に導かれて目の前に広がっていくような感覚を覚える。

「もし自分がバンドをやってなくて、自分の好きな人がバンドをやっていて、それを自分が応援している立場だったらどうだったんだろう?っていうことを想像して書いた曲です。
ちょっと気持ち悪いんですけど(笑)」と言って披露したのは、「Boy Friend」。

 そして、3曲目には「水平線」(back number)、4曲目に「JUPITER」(BUCK-TICK)のカバーを披露した。
back numberの清水依与吏とはプライベートでも交流があることに触れ、BUCK -TICKは自身が小学生の頃に衝撃を受けたロックレジェンドということで、彼らをリスペクトして選曲したことを明かしてくれた。
音楽が世代を超えて歌い継がれていくものであるという大原則は、この「楽演祭」の趣旨と共振して響いた。

 「彩雲」に続いてラスト2曲にパフォーマンスしたのは、トークパートでもピックアップした「REBIRTH」と「シーグラス」。
歌詞について作った本人から明かされたエピソードが、ライブによってまるで彩色されていくような様は、より歌の世界を深く味わうことができる体験だった。
また、弾き語りという最もシンプルなスタイルであるがゆえに、ジャンルを飛び越えて、曲の持つ魅力をダイレクトに体感することができるまたとない機会となった。


転換を挟まず、ホリエの呼び込みで木村カエラがステージに登場。
會田茂一(Ag)と中村圭作(Pf)をサポートに、「TODAY IS A NEW DAY」からライブが始まった。

トークの中で、自らのクリエイティブを「まっすぐにしか書けないし、まっすぐにしか歌えない」と語っていた彼女の声は、まっすぐ届く。
しかしそれは、彼女のボーカリストとしての表現力が何より奥深いところから出ているからなのだと思った。

「このホール気持ちいい! 学生のみんなはここで演奏したりできるんでしょ? うらやましい」

オペラなどにも対応したテアトロ・ジーリオ・ショウワでトップアーティストのアコースティックライブが体感できるというのは、まさに「楽演祭」だけの特権と言っても過言ではない。

2曲目は「リルラ リルハ」。言葉ひとつひとつが、これまでとは違った重みや色合いで響く。
続いて昨年12月にリリースしたアルバムから「ノイズキャンセリング」を披露した。
「ノイズキャンセリング」は、コロナの時期にニュースばかりを見ていたら不安になったことがきっかけとなって生まれた曲だと言う。

「自分にとって良くない言葉って意外と自分を悪い方向に引っ張ってしまう瞬間があって。時には自分と向き合って会話をしないと人ってダメになっちゃうよね」

アーティストのアンテナで捉えることのできた繊細な感情や微細な感覚を誰もが受け取れるように増幅して伝えること――それが創作ということなのかもしれない。
この曲を聴きながらそんなことを感じた。

続いて未発表の新曲「ケセラセラ」、そして最後に「Butterfly」を披露した。


木村が再びホリエをステージに呼び込むと、ホリエはバースデーケーキを運んで登場。
先日誕生日を迎えたカエラをオーディエンスも一緒にお祝いする一幕があった。

「リハの時に(昭和音楽大学の最寄駅である)新百合ヶ丘においしいケーキ屋さんがあるっていう話をしていて、完全に前フリだと思ったので準備しました(笑)」(ホリエ)

セッションでは、2人の共通項である大好きな漫画家さくらももこリスペクトということで、「ちびまる子ちゃん」の初代エンディングテーマ曲「ゆめいっぱい」、そしてホリエがカエラの声を評して「涙腺に直接くる声」を最も感じられる「happiness!!!」を披露した。
ラストは、カエラが好きなストレイテナー楽曲「灯り」を2人だけでパフォーマンスした。




イベント終演後、楽屋ではアフタートークが繰り広げられた。

「これは完全に神回でしょ(笑)」と言うカエラに、ホリエも「学生に向けて“自分を褒めてあげたい瞬間は?”って質問したけど、今回は自分を褒めてあげたい(笑)」と応じた。

「もうちょっとプライベートな話もできたらよかったけどね」(カエラ)

「意外と時間がなかった。それにしても、カエラちゃんのアコースティックがすごい新鮮だった」(ホリエ)

「ホリエくんも相変わらず(歌の)ピッチいいよね」(カエラ)

2人の関係性がそのまま表れた、ちょっと他では味わえないイベントになった。


Text:谷岡正浩 Photo:宮川朋久

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【第二部 ライブパート SET LIST】

ホリエアツシ(ストレイテナー)
1.    スパイラル
2.    Boy Friend
3.    水平線(back number)
4.    JUPITER(BUCK-TICK)
5.    彩雲
6.    REBIRTH
7.    シーグラス

木村カエラ
1.    TODAY IS A NEW DAY
2.    リルラ リルハ
3.    ノイズキャンセリング
4.    ケセラセラ
5.    Butterfly

木村カエラ×ホリエアツシ(ストレイテナー)
1.    ゆめいっぱい
2.    happiness!!!
3.    灯り

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■木村カエラ
2004年6月にシングル『Level 42』でメジャーデビューして以降、『リルラリルハ』『Butterfly』『Ring a Ding Dong』などヒット曲を立て続けにリリース。
2013年には、自身が代表を務めるプライベートレーベル「ELA」を設立。
2018年に初の絵本『ねむとココロ』、2020年には初のエッセイ本『NIKKI』 を出版。
2022年には約3年5カ月ぶりとなるアルバム「MAGNETIC」をリリース。
音楽にとどまらない多岐にわたる活動を行っている。

■ホリエアツシ
大舞台をおおいに沸かせる日本屈指のロックバンド、ストレイテナーのヴォーカル&ギター&キーボード、ソングライティングを担当。
バンド結成25周年・メジャーデビュー20周年のアニバーサリーイヤーを迎えた2023年、10月には10年ぶり3度目となる日本武道館公演(Sold Out)を開催。
2024年には全国ツアー「Silver Lining Tour」を控え、新たな動きに注目が集まっている。
またソロプロジェクト"ent"としても活動し、3枚のアルバムをリリース。
他にも映画「ソラニン」の劇中音楽や鈴井貴之主宰の劇団OOPARTSの舞台「CUT」、ファッションブランドのコレクションテーマ等、様々なフィールドで活躍中。

■柴 那典/しば・とものり
1976年神奈川県生まれ。音楽ジャーナリスト。
京都大学総合人間学部を卒業、ロッキング・オン社を経て独立。
音楽を中心にカルチャーやビジネス分野のインタビューや執筆を手がけ、テレビやラジオへのレギュラー出演など幅広く活動する。
著書に『平成のヒット曲』(新潮新書)、『ヒットの崩壊』(講談社現代新書)、『初音ミクはなぜ世界を変えたのか?』(太田出版)、共著に『ボカロソングガイド名曲100選』(星海社新書)、『渋谷音楽図鑑』(太田出版)がある。
ブログ「日々の音色とことば」http://shiba710.hateblo.jp/ 
Twitter:@shiba710 /note : https://note.com/shiba710/