トータス松本×藤巻亮太『楽演祭 vol.2』ライブレポート
取材・文/坂井 彩花 撮影/今井 卓
科学反応では済まない魔法を
まさかと思うような組み合わせが、想像を超えた結果を生み出したとき「まさかの化学反応が起きた」なんて私たちは表現したりする。だが、そうやって表して収まってしまうことなのだから、きっと大した化学反応なんて起きてないのだ。
しかし、ごくたまに「まさかの科学反応」なんて言葉では安っぽくてしょうがない、魔法でも起きたのではないかと思ってしまうようなできごとがある。11月8日(木)に、昭和音楽大学内 テアトロ・ジーリオ・ショウワにて行われた『楽演祭 vol.2』は、そういう日だった。
ステージに立ったのは、藤巻亮太とトータス松本。全く違う食事をしていそうなふたりだが、彼らが作った〝ディナー〟は“素晴らしい”以外の何物でもなかった。
まず、ステージに現れたのは藤巻亮太だ。深くブレスを取るとギターをかき鳴らし、「まめ電球」が紡がれた。歯切れのいいジャキジャキとしたサウンドに、深みのある低音が心地よく乗っかる。低い音はぼやけて聞こえづらくなってしまいそうなものだが、彼の歌はハッキリとした発音で歌詞がまっすぐに飛んできた。続いて披露されたのは、映画『バケモノの子』にインスピレーションを受けて作られたという「Have a nice day」。会場からは自然とクラップがわき、会場が一気にもりあがる。手拍子はそのまま引き継がれ、艶っぽい声が煌めく「五月雨」へと流れついた。情景を丁寧に歌いあげる彼の魔法にかかると、さながら映画を観ている感覚に陥る。曲調により語り口を伝える姿は、シンガーである以上にストーリーテラーという言葉がふさわしいかもしれない。
MCを挟み、壮大な音楽が人々を包みこむ「マスターキー」、胸の奥に憂いが訴えかける「星取り」と続く。イントロのメロディーに会場がグッと息をのんだのは「粉雪」だ。他の曲にも増して、より甘くより優しく奏でられる音楽はまるで自分が語りかけられているよう。10年以上の時が経っても鮮明な音像に、名曲には時空の流れなど関係ないということをまじまじと痛感させられた。感謝と愛を織りこむように「3月9日」を歌いあげ、藤巻はステージを去った。
「トイレ行ってる人いる?」なんて言葉を発し、笑いから観客を引き込んだのはトータス松本だ。「お願いしますー!」と声をかけ、「変わる 変わる時 変われば 変われ」が封切られる。力強い歌声とギターの音色は、体の隅々まで真っすぐに音楽のパワーを突き刺した。それに影響を受けたのか最初はまばらだった拍手も、大きな波を巻き起こすほどに。力業ではないのに、引っ張られて引き込まれてしまう。そんなパワーが彼からは溢れていた。「ワンダフル・ワールド」では「繰り返しが続くだけだからいいでしょ(笑)」と言い放ち曲を中断して会場を笑わせ、「分かってさえいれば」では年を重ねた男の色気で会場を魅了する。同日に開催されていた『西日本豪雨復興支援チャリティコンサート』に参加できないからと、カーリングシトーンズの曲をひとりでもやってのける心意気は実に粋だ。その後「チークタイム」でオーディエンスを引き寄せつつ、ショートバージョンで「目抜き通り」、「ありガッチュー」を、クルクル変わる表情で魅せつけた。
「真面目な歌を歌おうか!」と、言い奏でられたのは、藤巻が好きな曲だと言っていた「涙をとどけて」。サラッとそういうことを言い放ち、自由奔放(に見える)演奏をする。そんな彼がいかに気遣いの人で、男気溢れる人なのかということが、選曲やプレイから十二分に伝わってきた。続けて直球の歌詞が魂を揺さぶる「サムライソウル」、考えさせるよりも感じさせる「笑えれば」、嘘のないリリックが胸を打つ「愛がなくちゃ」とノンストップのライブが繰り広げられる。締めの1曲となった「愛がなくちゃ」での、ひとりひとりに教えてあげるように歌う眼差しはどこまでも優しくて、のぞき込み返すと吸い込まれそうになる。特大のコール&レスポンスを<愛がなくちゃ>で巻き起こし、会場をひとつにまとめあげた。
拍手は鳴りやむことなくクラップに転じ、ふたりがステージに現れた。曲名がコールされ、どよめきが起こったのはウルフルズの楽曲である「バカヤロー」。ダンディで迫力のあるトータスの声と、甘くつるつるした藤巻の声の重なりは心地いい違和感があり、普段とはまた違う魅力を放つ。続いて演奏は、藤巻の楽曲である「日日是好日」へ。“今日出会えたこの時を楽しもう”という思いに偽りないくらい、彼らの様子は本当に楽しそうで見ているほうまで幸せなオーラが伝染してくる。<明かりを消したって 心の炎までは消したつもりはないぜ>と歌うふたりの姿に、男同士の友情にのみ存在するロマンを感じた。この日のラストを飾ったのは、トータス松本が敬愛する忌野清志郎(THE TIMERS)のキラーチューン「デイ・ドリーム・ビリーバー」。彼らのために制作されたのではないかと錯覚するほど、曲との相性もばっちりでハモリも絶妙に溶け合う。心地いい音楽で観客を心酔させ、この日を締めくくった。
着実にパフォーマンスを成し遂げた藤巻亮太、先輩として背中で魅せつけたトータス松本。ふたりが創り上げた日は、魔法のような夜だった。こんな日があるからこそ人々は音楽のパワーを信じられるし、明日も少しだけ頑張って生きていけるのかもしれない。
新たな魔法を生み出すべく『楽演祭』は続いていく。まだ見ぬ組み合わせが、新たな煌めきを教えてくれる日が楽しみだ。
SET LIST
藤巻亮太
1.まめ電球(レミオロメン)
2.Have a nice day(藤巻亮太)
3.五月雨(レミオロメン)
4.マスターキー(藤巻亮太)
5.星取り(レミオロメン)
6.粉雪(レミオロメン)
7.3月9日(レミオロメン)
トータス松本
1.変わる 変わる時 変われば 変われ(ウルフルズ)
2.ワンダフル・ワールド(ウルフルズ)
3.分かってさえいれば(カーリングシトーンズ)
4.チークタイム(ウルフルズ)
~ちょっとシリーズ~
5.目抜き通り(椎名林檎とトータス松本)
6.ありがっちゅー(ウルフルズ/新曲)
7.涙をとどけて(トータス松本)
8.サムライソウル(ウルフルズ)
9.笑えれば(ウルフルズ)
10.愛がなくちゃ(ウルフルズ)
ENCOLE SESSION
EN1.バカヤロー(ウルフルズ)
EN2.日々是好日(藤巻亮太)
EN3.デイ・ドリーム・ビリーバー(THE TIMERS)