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「楽演祭」ライブレポート【スタッフから見た楽演祭】

2018年1月11日に昭和音楽大学・テアトロ・ジーリオ・ショウワで行われた斉藤和義氏、山内総一郎氏(フジファブリック)によるアコースティックライブ。そのステージに中でスタッフが見た〝物語〟をスタッフが綴る

昼間の「楽演祭」の〝学びの場〟での授業を終え、今回のステージとなるテアトロ・ジーリオ・ショウワの楽屋に戻った斉藤和義氏と山内総一郎氏。
小休止を入れ、すぐ様、リハーサルが行われた。実はセッションに関しては、フジファブリックの「ブルー」と斉藤和義の楽曲をやろうということだけは決まっていたが、当日まで確定していなかった。この日が二人合わせてでは初となるセッションリハ。その中で最終的なセットリストは決めていきたいとのことだった。

開場間近、ライヴ制作の細田に斉藤氏が思わぬ提案をしてきた。
「せっかくだから、総ちゃんと二人で前説やろうか?」
ライブ前に行われた昼間の授業で受講生に触れ、何か感じるところがあったのかもしれない。「ぜひ、お願いします!」。すぐさま、細田は答えた。
山内氏にもその旨を伝えに行くと、「そうなんですね。いいですよ。だったらセットリストをちょっと変更してもいいですか」と提案が。斉藤氏の提案に、さらに何かが山内氏にも共鳴したようだった。
その後、山内氏から差し出された新しいセットリストを見て、細田はその内容に胸が高鳴るのを押さえずにはいられずにいた。

キ~ンコ~ン、カ~コ~ン、コ~ンキ~ン、カ~ンコ~ン

学校らしい独特の開演チャイムが鳴り響くとともに二人が登場する。
斉藤氏が「山内総一郎~!」と紹介し、その後、「これ『楽演祭』なんですよね。でも、あの『学園祭』じゃないんですよね」「昼間授業をやってたけど、最後に授業だったと気が付いた」など軽いジョークを交えながら、本イベントの説明もしてくれた。
そして、山内氏のパートにつなぐ。
「まずは、総ちゃんから!」
斉藤氏の言葉を受けて山内氏も「最初に二人で出ていくっていうのも、15分前くらいに決まったんですよ」と応え、会場の笑いを誘いつつ、スタートを切った。

PART1 山内総一郎(フジファブリック)on STAGE


会場の雰囲気は一瞬にして変わり、ギターの音が鳴り響きわたる。

1曲目は「カンヌの休日」。ドキュメンタリードラマ『山田孝之のカンヌ映画祭』の主題歌で、俳優・山田孝之がボーカルで参加したことで話題となったコラボレーション曲。もともとはギターとシンセが絡む疾走感のあるサウンドだが、アコースティックギター&山内氏のボーカルによりまた曲は表情を変えていた。カンヌ映画祭で受賞した映画のタイトルを羅列したコンセプチュアルな歌詞でさえ別の意味を持っているように感じる。そして、「カタチ」。「あの時、ああしていたら、どうなっただろうと思うことは誰にでもあるが、時に身を任せてもいいんだ」ということが唄われたストレートな歌詞が力強くシンプルなギターサウンドに絡みつくように心に飛び込んできた。

3曲目は彼の音楽のルーツでもあるザ・ビートルズのカバー「Ⅰwill」。曲前のMCで「今日の授業でも話したんですけど、父親がビートルズのカバーバンドをやっていて、いつもビートルズが流れていた」と話す山内氏。そして、斉藤和義氏との出会いもそんな父親が斉藤氏のアルバムを買ってきたのがきっかけだという。
斉藤氏の音楽のルーツにももちろんビートルズが入っている。そんな音楽がつないだ二人の縁に何か不思議なものを感じずにはいられなかった。

曲が終わった後、一瞬間をおいて山内氏は静かにこう語り始めた。
「僕はもともとギタリストで、今はボーカルをやっていますけど、もともとフジファブリックには中心人物として志村(正彦)くんという人がいて、2009年に突然他界するんですけど……。彼の意志を継いで……フジファブリックを続けていくにはどうしたらいいんだろうと考えて、それで僕が唄う道を選んだんです。今日もこういうことがあるのも運命的だな、と思って。今日も授業で若い人たちに会って……。最初に青い気持ちで、僕が歌を唄おうと決めた曲をやります」

そう言うと「ECHO」を奏で始めた。もともとのセットリストにはなかった曲だった。「もともとやるつもりでなかったけど、講義で斉藤さんと話しているうちにやろうと思ったんです」と曲後に話していた。何かの運命を感じ、選んだのだろう。
「ECHO」は志村氏を失い、3人体制になったフジファブリックで山内氏が「この曲は自分しか唄えないと思った」と語っていた曲。

どこまで行ってもそう、続いていくものなんだ
立ち止まってみたりしても
考えてもそうだ 答えはどこにもないよ
それでもいいんだって思えるよ

そんな歌詞が「カタチ」に呼応するように余韻を残しつつ胸に響きわたってきた。


曲間のMCで昼間の授業の時に生徒さんから「夢は叶っていますか?」という質問があったことを話し始める山内氏。
「いい質問するなあ、と思ったんですよ。フジファブリックとしてデビューして、ここからが勝負だと思っていたですけど。でも、デビュー5年で志村くんという存在がいなくなってしまったというのが今考えると早かったな、と思う……。でも、バンドを続けられているってことに関しては夢が叶っているって思うんです。その時に言おうと思ってたけど、言えなかったので今言います」と語り、こう続けた。
「斉藤さんとこういうステージに立てることは本当に夢が叶ってるな、と思って……。ありがとうございます!」

「いよいよ斉藤和義カバーかな」と思ったところで、「その前に」といって5曲目に持ってきたのは「LIFE」。

ちっちゃい頃に思ってた 未来の姿と今はなんだか
違うようだけれどそれもいっか
僕は旅に出たんだよ 雨の日も風の日もあるけれど
大切な何か知りたいんだ

「LIFE」の軽快なリズムに聴きながら、「物語のようなセットリストだな」と思う。
「カタチ」「ECHO」「LIFE」……。まるでこれまでの山内氏の気持ちの変化をステージで表現しているように感じた。
そして、斉藤和義氏の「劇的な瞬間」。一緒にツアーを回ったこともある山内氏。斉藤氏のギター魂を継ぐようなギターサウンドに、オリジナルのアレンジを入れた演奏。気持ち良さそうにギターをかき鳴らし、ラストに「いい曲~!」と叫んだ。その声とともに会場は一気に盛り上がった。

ラストは「虹」。フジファブリックの初期の作品で5thシングルとなった曲だ。志村氏が「一歩前に進んで行く感じというか、一歩踏み出したいという気持ちを表したかった」という想いを込めて作ったこの曲。そんな想いを載せた軽妙な8ビートのサウンドがさらに会場の熱を上げていく。バックには空の映像とともに「虹」が描かれている。その虹を支えるように手の平を上に向け「これがラストだから盛り上がって!」という掛け声をかけると、ラストに向けて全身を使ってギターをかき鳴らし始めた。そのギター・テクニックに歓声が湧く。演奏を終えた後、山内氏は会場の大きな拍手の中、一礼をするとステップをふんで軽やかに袖へと向かって第一幕のステージを終えた。

PART2 斉藤和義on STAGE


そして第二幕は斉藤和義氏。暗闇の中、セッティングが終わったステージにゆっくりと登場。ホルダーにブルースハープをセットし、ギターを持つと「いえ~い。じゃ宜しくお願いしま~す」といつものゆる~い挨拶をした後、おもむろにギターを奏で始めた。

1曲目は「アゲハ」。歌の中の女性が21歳、22歳、26歳、32歳と年齢を重ねてく中で、彼女にとっての〝本当に大切なもの〟を〝アゲハ〟に例え、成長の中で一度失いまた手にしていく様を唄った歌だ。
メロディアスなギターの旋律に切ないブルースハープの音が混じり合い、聴く者に独特な物語性を感じさせる。
そんなループする人生の中で本当の自分を見つけていく、という歌詞に、その前の山内氏のステージを受けて、年上の斉藤氏からのアンサー的なステージへの始まりを感じずにはいられなかった。

そんな気持ちをはぐらかすかのように、斉藤節のMCを挟みつつ会場を爆笑の渦に巻き込んでいく。

そしてその爆笑の中、「あこがれ」を弾き始めた。

あこがれ 隣に習えだって 安心出来るからしょうがない
街中 エメラルドの瞳で 
キミなら そのままの方が キレイなのに
あこがれ そうね… でも…
キミなら そのままの方が ずっとずっといいのに

「アゲハ」に続けての「あこがれ」。斉藤氏のギター・テクニックはさることながら、そのメロディの中から、掴みどころがなさそうに見えて、ブレることのない斉藤和義の姿勢を感じずにはいられない。そしてこの2曲を通し「本当に大切なものは自分の中にあるんだよ」と教えてくれているように思えた。

その後、「デビュー25周年を迎えるんですけど、今日の授業は18、19歳に学生さんたちだったんですよね。というとまだその学生さんたちが影も形もないうちからやってるんですね……。ゲッ! 嫌な感じ!?」と驚き、再び会場の笑いを誘いながらも、そんな斉藤氏の25周年スタートとなった昨年11月にリリースされた新曲「始まりのサンセット」を披露。製薬メーカーのCMソングにもなっているやさしくも力強いメロディのミディアム・バラードだ。

あぁ これからだ 
自分のために もっと心のままに
振り返るのはその後で

そんな歌詞が、これから社会に出ていろいろな人生の中で迷い歩むであろう学生たちに向けてのエールにも聞こえてくる。


そして、小田急線沿いにある昭和音楽大学からほど近い「町田」にある楽器屋さんに行くことがある、などの地元ネタをはさみつつ、ゆるりと「マディウォーター」を奏で始める。
ドラマ『不機嫌な果実』の主題歌でもあったこの曲のタイトルの意味は「泥水」。男女のドロドロとした人間関係が描かれたドラマの内容に合わせて書き下ろした歌詞は「なぜ自分ばっかり 損してるんだろう」というフレーズから始まる。

その歌詞の奥にある「自分にないものばかりを望んでも、幸せになれないよ」というメッセージを感じつつ、やはりここまでの4曲に中に「いろいろあるけど迷わずに生きた方がいいんだよ」といった斉藤氏のメッセージが詰められているように思えてならなかった。
きっと斉藤氏に尋ねたら「そんなことないよ」と言われるかもしれないが……。

そしていよいよ残すところあと3曲。
続けたのは「ずっと好きだった」
斉藤ファンには応えられない人気曲。学生たちも必ず耳にしたことがあるであろうこの曲で一気に流れを変えていく。

リハーサルでは、「今日はヒット曲的なのはやらないかも」といっていた斉藤氏。頭からパラパラとステージにある楽譜を見ながら、曲を決めていた。その中で山内氏のステージ、そして会場の雰囲気を肌で感じつつ曲を選んでいく。

軽く今年3月から始まるツアーと、2月にリリースされるアルバムの告知を挟むと、大ヒット曲「歌うたいのバラッド」を弾き始めた。アコースティックギターに音ともに、やさしい歌が会場に響きわたる。観客がどんどんそのメロディに引き込まれていくのを肌で感じた。曲を終え、拍手が鳴り響く中、さらにドラマ『家政婦のミタ』に主題歌でもあった「やさしくなりたい」を続ける。矢継ぎ早に客を巻き込んでいく。会場の熱は立ち上がった観客の手拍子とともにラストに向けてのぼり続けていった。
斉藤氏が袖に下がった後も鳴りやまない拍手は、次第にアンコールへの期待への手拍子と変わっていった。

ENCORE SESSION


拍手に迎えられ登場した斉藤氏と山内氏。「総ちゃーん」「斉藤さーん」と互いを紹介し合う。
出会ってから15年経つという二人。私ともども仲のよい二人らしく、たわいない話を絡めつつ、初めて斉藤氏にフジファブリックのライブに出てもらった時の思い出を話し出す山内氏。

「ああ、あの時『茜色の夕日』唄いましたよね。あれ覚えてる。いい曲だよね」(斉藤)
「でも、あの時、斉藤さんベロベロできましたよね」(山内)
「えっ? ライブに?」(斉藤)
「プロの方ってどんな風にいらっしゃるんだろうって思ってたら、二日酔い気味なんだよね~、って」(山内)
「あ、二日酔いだったけど……、飲んではやってないでしょう?」(斉藤)
「あ、飲んではいないですね」(山内)
「そう、奥田民生じゃないから(笑)」(斉藤)
とオチをつけたところで、アンコールのセッションパートがスタート。

1曲目は斉藤和義氏の「進め なまけもの」。
斉藤氏と山内氏のギターセッション、まさに息がピッタリだ。これまでの二人のソロでの音はまた違ったエモーショナルなステージが沸き上がる。

続けて、以前ラジオでもセッションしたことがあるというフジファブリックの「ブルー」を続ける。フジファブリックファンにも人気のある山内氏作詞作曲による名曲だ。
途中サビでは二人でハモリを入れる。二人のギターと声が溶け合ったハーモニーにより、また違ったこの日だけの「ブルー」となった。
ライブの面白さは、こんな「その日でしか聞けない曲」に偶然出会えることだ。
終わった後、斉藤氏も山内氏も満足気な表情が印象的だった。

そして「次な何やろうか?」と尋ねる斉藤氏。山内氏は待ってましたと言わんばかりに
「今日の授業で『デビュー前に影響を受けた曲』で斉藤さんのアルバム『ジレンマ』をあげているんですけど、これ最初に斉藤さんの曲でカバーしたアルバムなんですよ」というと。
「オレと今ふたりきりだから、そういってくれるでしょうけど。それより前に買ったのはウルフルズなんですと言っていたりして…」と斉藤氏。
そんな流れの中、いきなりウルフルズの「バンザイ ~好きでよかった~」をスタート。ハモリを入れながら、交互に唄いながら(さすがにうる覚えな部分がありつつも 笑)唄いきった。
「なんでいない人の(笑)」と山内氏。
それには答えず、いきなり斉藤氏は続けて奥田民生の「イージュー ライダー」を弾きだす。会場からはさらに拍手。これだけ即興にも関わらず、息の合ったセッションができるのはさすが。しかも、こういう時の二人はまさにギターキッズだ。ギターでセッションするのが楽しくてしかたないというのが、体から滲み出ている。そんなこんなで、すっかりなごんだ空気の中、楽しみ過ぎたせいで公演時間はすでにオーバー。スタッフから二人に音止めの指示がある。
「えっ? 時間だって」と斉藤氏言う、会場から「エーッ」という大ブーイング。
その声を聞き、山内氏が「あ、でもやります?」と斉藤氏に尋ねると、「実はリハでやってた曲あるんですよ」と斉藤氏。
いよいよアンコール・ラストとなる斉藤和義の「FIRE DOG」のセッションが始まった。このギターロックなナンバーは斉藤氏の初期の作品。途中のギターセッションはまさにこの二人でしかできないようなグルーブを奏でる。会場総立ちでラストを迎えた。

アーティストはいつも想像以上の宝物をくれる。時にはそのステージに自分の道標的なものを見つけることもできることもある。

でも、そんな話をしても「そんなに自分たちの歌で人生変えられても困っちゃうんだよね」と二人は言うかもしれない。

そう、いつも音楽は自由なのだ、そう思う。


撮影/コザイ リサ  文/中條 基(別冊カドカワ)