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【楽演祭】講義 全文公開③

⑤ ギタリストとしての魅力


柴:そういえば、「デビュー後に影響を受けた音楽」で斉藤さんはハース・マルティネスを挙げていますね。

斉藤:そう。ハース・マルティネスさんって人がいて。ギターがね、ガットギターで、ボサノヴァみたいな雰囲気なんだけど、ジャズっぽいフレーズも弾くっていうすごいダミ声のミュージシャン。アルバムは2~3枚くらいしか出してない人で、4~5年前に来日した時に、弾き語りをすごい小さなライブハウスでやっていたのを見にいったんだけど、すごい良かったですね。

柴:どういうふうにして知ったんですか?

斉藤:当時のレコード会社のディレクターの人に、このアルバムカッコいいよって教えてもらって、そこから本当にめちゃめちゃハマって。曲のコード展開みたいなのもすごいカッコいいし、シャレてるし、でもどっかロックな匂いもするっていうか。

詩音:お二人は洋楽を聴く時に、歌詞とか見ますか? 意味とか。

斉藤:俺はあんま見ないですよね。よっぽど気になると見るけど。
山内:タイトルの意味がわからない時とか見ますけどね。
斉藤:日本語で歌ってほしいですよね。
山内:(笑)。でも、勘違いして覚えているのも俺結構好きで。なんか、勘違いしたままいく人ってすごい僕好きなんですよね。自分もそうなりたいなと思うんですけど。

柴:山内さんは、「デビュー後に影響を受けた音楽」で挙げているのはビル・フリーゼル、マーク・リボー、アンディ・アーバイン……。ギタリストですよね。やっぱりさっきおっしゃったように、いろいろ掘っていくなかで自分のアンテナに引っかかったものって感じですか?

山内:そうですね。世代的にテクニカルなギターの人も多かったですけど、どっちかっていうと僕は牧歌的なギターが好きで。ゆっくりしたギターっていうか。その代表格としてビル・フリーゼルというのはすごく、カントリー……、まぁすごくエキセントリックなプレーもあるんですけど、カントリーに寄ったギターですごく心地いいですね。ペダルスティールギターといって、ミシンみたいに足を使うスライドギターがあるんですけど、それを演奏していて。その音色とか好きなので……。全部好きですね、この人のアルバムは。

柴:ギタリストって、結構オレがオレがみたいなタイプが多いじゃないですか。でも、山内さんは、あまりそうじゃないのが特徴のように思えるんですけど。

山内:そうですね、僕はもともと、どっちかっていうとビル・フリーゼルみたいなって言ったらあれですけど、ほわぁっとしたものや特殊奏法っていわれるものがすごく好きだったんです。でも、バンドのメンバー、特に、亡くなってしまったんですけど志村(正彦)くんと出会って、彼はギターリフとかギターソロがすごく好きで、感化というか、自分の才能を引き出してくれた、っていのがすごくあるんですよね。そんな変化の中で自分の中ではもっとゆったりしたものが元にあるなぁ、っていうのを気づかせてくれたのがやっぱりビル・フリーゼルとかなんです。マーク・リボーとかは斉藤さんに教えてもらったんです。
斉藤:マーク・リボーさんはね、ニューヨークのアンダーグラウンド界の重鎮みたいなギタリストなんですけど、昔アルバムにも参加してもらったことがあって。(彼のギターは)ちょっとなんていうか、変態チックなね。これで合ってるのか、っていうような。
山内:自由なんですよね。やっぱりそういう感じが好きなんです。
斉藤:このアルバムとかは特に。キューバ音楽を、インチキキューバ音楽をやるみたいなね。

柴:「マーク・リボーと偽キューバ人たち」みたいなバンド名がついてますものね。

斉藤:そうそう。それがすごいカッコよくて。ライブ見にいってもそうで。で、でたらめな人かと思っていたら、この人は音楽理論も何も全部わかった上でわざとミストーンを技としてやってる。
山内:矢野顕子さんとかもよく一緒にやられてましたよね、マーク・リボーとか。

柴:あと斉藤さんはプリンスも挙げてますが、「カオス&ディスオーダー」をセレクトしてますよね。

斉藤:プリンスを聴き始めたのは遅かったんです。聴き始めた頃に、たまたま最初に聴いたのがこれだったっていうのがあるんですけどね。プリンスってギタリストとしてもこんなにカッコいいんだなと思って。しかもこのアルバムは当時のレコード会社と揉めて、契約上の枚数をクリアにするために2日とかで作ったっていう逸話があって。詞曲、録音全部2日3日で作っちゃったっていう……。

柴:僕も今回、事前に資料集めてみたんですが、これは廃盤なんですね。たぶん契約上の問題かもしれませんが、サブスクリプション(注記必要?)でも聴けないんですよ。

斉藤&山内:あぁ、そうなんだ。

柴:プリンスって本当にいろんなことやってる人ですし、作品もめちゃめちゃ多いから、どこから入ったらいいかわからないところがありますよね。
でも、斉藤さんは、ギタリストとしてカッコいいプリンスはこれ、という観点で選べばれていますよね。

斉藤:うんそう。これがたぶん彼が一番ギタリストとしては弾き倒してるんですよ。プリンスってドラムをはじめ演奏からエンジニアかまで何から何までやるんけど、その存在がすごすぎてギタリストっていうふうにはあんま見られない。でも、ギターだけとっても超一流で。めちゃめちゃ上手いし、独特だし。なんか、プリンスってライブで回ると、自分のライブが終わってもツアー先のバーとかで演奏できるお店を探して、そこでまたメンバー引き連れてジャムセッションしたりしていたらしいんですよね。
山内:それどっかで聞いたことありますね。それ斉藤さんも同じじゃないですか?
斉藤:いや、俺もそういうのも好きですけど。プリンスが店に行くと、そこにエドワード・ヴァン・ヘイレンが遊びにきたりして。
山内:遊びにきて!
斉藤:二人でギター速弾き対決をするんだけど、プリンスのほうがすごかった、って話もあってですね。
山内:カッコいいなぁ、それ!

柴:プリンスとかビートルズとか、ある種のポップミュージックの古典みたいな大物って、逆に若い人にしてみれば、どこから入ればいいんだろう、って悩むとろがあると思うですよね。だから「ここだけイイ!」とか「ここのポイント好き!」、みたいにして聴く曲を決めるのはいいかもしれないですよね。

斉藤:あぁ、そうっすね。
山内:うんうんうんうん。
斉藤:この人のギターが好き、と、このドラムが好きとかね。

⑥ 最近気になる音楽


柴:そして、最近気になる音楽っていうのも知りたいなと。まずは斉藤和義さん。トリックフィンガー、RJD2、グラント・グリーン。トリックフィンガーとかRJD2のようなテクノやエレクトロのあたりの音楽は最近気になっているんですか?

斉藤:そうですね。前からこういう音がは嫌いじゃないし、YMO世代なので、テクノ系の電子音楽とかドラムマシーンとか、ああいうのも好きなんですよね。レッチリ(レッド・ホット・チリ・ペッパーズ)のね、ジョン・フルシアンテがレッチリを抜けてからほとんどテクノしかやらなくなって。

柴:レッチリのジョン・フルシアンテって、世界でもトップレベルのギタリストがトリックフィンガーとしてエレクトロな音楽をやるという。

斉藤:うんうん、そうそうそう。そういう人がほとんどギターを弾かなくなって、何台もシンクロさせて壁のようなモジュラーシンセをドバッと並べてテクノを作り出していて。その気持ちはどうなってんだろうって気になるところはありますけどね。いわゆるテクノはダンスミュージックっていうイメージがあって、踊れないといけないみたいな感じがするんだけど、YMOにしてもジョン・フルシアンテにしても、RJD2も、踊らなくていいテクノみたいな感じなんですよ。音楽として聴けるテクノっていう感じなんです。エイフェックス・ツインとかね、そっち系のテクノの人が結構前から好きなんですよね。

柴:山内さんは「最近気になる音楽」でアンディ・シャウフも挙げていますが。
どういうふうに知って、どういうふうに好きになったんですか?

山内:このアーティストですね、僕らあの、HMVで僕らのコーナー作っていただいてるんですけど、そこの店長さんに「好きだと思うよ」って勧めてもらったんです。実は一昨年ぐらいにもらったんですけどずっと聴いてなかったんですね。で、聴いてみようと思ったら、「めちゃめちゃいいやんか!」って。ドンピシャでしたね、当てられちゃってるっていう感じでした。すべて好きな音で構成されているんですよね。最近ずっとこればっかり聴いてますね。リリースは2016年ですけど、新譜の中からそういうのが生まれるのは本当に嬉しいです。

柴:そうですね。挙げていただいたやつは全部新譜ですよね。山内さんだと、好み的には、古い音楽に多そうな感じだと思っていたんですけど。

山内:そうなんですよね。最近のアーティストは60年代70年代の音を再現するのが本当に上手いなと思って。アナログを使ってなくても、プロトゥールス(注記必要?)でも、こんなにいい音で録れるんだっていうのは、すごく参考にもなりますしね。僕もシド・バレットがボーカルで、今のピンク・フロイドが演奏したらぐらいの……そういったのを想像をしながら聴いてるんですけど(笑)。

※次回は2月26日公開!

撮影/コザイ リサ