【楽演祭】講義 全文公開②
③ 2人が好きなザ・ビートルズ
柴:デビュー前に好きだった音楽でお二人が挙げていただいた中で共通するのがザ・ビートルズだと。いろんな時期のビートルズがありますが、割と二人とも同時期のものなんですね。
山内:そうですね。
斉藤:僕は1966年生まれなんで、ちょうどビートルズが来日した年で。だからもちろんリアルタイムでは知らないんですけどね。うちに居候していた叔父さんがすごいビートルズ大好きでカセットテープにビートルズ・ベストみたいなのを作ったんですよ。それをよく聴かされたというか聴いていて。だからビートルズっていうのは普通にみんな聴いてるもんなんだろうなぐらいに思っていた。その後、ちゃんと聴き出したのは、俺が中3の時にジョン・レノンが殺された事件がきっかけですね。当時、ニュースで結構大騒ぎになって。その時に学校のみんなが、「なんかすごい人が死んだみたいよ、誰なのあれ?」みたいな感じになっていて。で、自分としては「えっ? ジョン・レノン知らないの?」みたいな感じで、みんながそんなに知らないことが初めてわかったんですよね。それもあって優越感じゃないけど、自分はいいもの聴いてたのかもしれないと思って、改めてちゃんと聞き出したらハマってしまったという感じですね。
柴:斉藤和義さんの世代でもリアルタイムではないですし、山内さんだと更に違う。
山内:そうですね。全然テレビの中の人っていうか。父親がドンズバ世代っていうか、1
Stアルバム『プリーズ・プリーズ・ミー』の1曲目「I saw her standing there」に一番影響受けたような世代なんで。で、父親もビートルズのコピーバンドのドラムやっていて、恥ずかしいんですけど、バンドネームが〝リンゴ山内〟っていう……。
会場:(笑)。
山内:僕は嫌だったんですけどね。夜な夜な酔っ払うと父親が自分のライブビデオとか見て、「カッコいいやろ俺」、みたいな。最初は苦手だったんですけど、意識的に聞き出したのは90年代後半かな? 「Free as a bird」(1995年にリリースしたジョン・レノンがレコーディングしていた未発表曲のデモテープを元に他のメンバーがレコーディングを行い、完成させた曲)の世界同時公開放送が『ニュースステーション』であったんですけど、それを家族全員で正座して見て。それまで車の中とか部屋ではかかっていたんですけど、こういう人たちだったんだ、と初めて実感して。それが、音楽を始めた後も、一番ちゃんと聴く曲になったきっかだったのかな、たぶん。
柴:そういう、親戚のおじさんとか、父親とかって、小さい時には影響が大きいですよね。
山内:そうですね。
斉藤:たぶん今60代中盤くらいの方たちが、本当にドンピシャのリアルタイムの人たちで、それこそRCサクセションの忌野清志郎さんとか仲井戸麗市さんとかね。仲井戸麗市さんのライブ見にいった時に話したんですけど、「当時どのくらい日本でビートルズ流行ってたんですか」と聞いたら、「みんな後になってビートルズすごかったって言うけど、当時はみんな全然ビートルズ聴いてなかった」っておっしゃっていて。
柴:へぇ。
斉藤:ちょっと尖がってるヤツが一人二人知ってるくらいで、当時はみんなベンチャーズとかが好きで、ビートルズはちょっと不良みたいな人たちしか聴いてなかったって。後になってみんな、「流行ってたよねぇ」って言うんだけど、「お前聞いてなかったじゃねぇか!」みたいな(笑)。
柴:大人になると自分の過去を捏造するんですよね。
斉藤:そうそうそう、捏造して。そうみたいですよ。
山内:あぁ。今で言うジェイZみたいなことですかねぇ。
柴:今から10~20年後、ヒップホップの古典としてジェイZが有名になった時に、「あぁ聴いてたよ」とかいうヤツ。「お前そうじゃないだろう!」って(笑)。
山内:「嘘つけ!」みたいな(笑)。
④ デビュー後に影響を受けた曲
柴:「デビュー前に好きだった音楽」というのは定番の質問ですが、今回、「デビュー後に影響を受けた音楽」の話がなかなか面白いなと思っていまして。デビュー前だと親とか親戚とか友達とか、いろんな音楽を知る経路があると思うんですけど、デビュー後ってどういうふうに新譜とか、自分の知らなかった音楽を知るようになったんですか?
山内:僕は出身が大阪で、そこから東京に引っ越した時に赤羽に住んだんですけど、赤羽のTSUTAYAに置いてある自分が知らない音楽は全部借りましたね。「これからミュージシャンとしてやっていくのに、〝誰だろうこれ?〟ではダメだな」と思って。で、引っかかった音楽もあれば、こんなもんか、みたいな音楽もあり、みたいな。あとは、知り合ったミュージシャンとか、いろんな人たちに教えてもらうこともやっぱり多いですかね。
斉藤:俺もね、今もそうなのかもわかんないけど、デビューしたばかりの頃って、ラジオ番組を持たされるじゃないですか、やらされるというか。
山内:やらされる(笑)。
斉藤:しゃべれもしないのに、そんな番組でいいんだろうかと思って。で、「変態さんいらっしゃい」ってコーナーばっかりやってたんですけど(笑)。でも、まぁミュージシャンだしなって思って、「あなたの知ってるお勧めの音楽教えてください」ってコーナーもやっていて。そこでいっぱいリスナーの人に送ってもらって知った曲もあったね。あと、デビューするとツアーでいろんなところ行くようになったので、各地のロックバーみたいなところでかかってる曲を、「これなんですか?」って聞いてみたり。
詩音:でも、デビュー前と後って、音楽の聴き方が変わっちゃったりしませんか?
斉藤:あぁ、職業的にね。確かに、そうですね、純粋に音楽聴くというよりは、これどうやって録ってるんだろう、とか、どんなスタジオでどれくらいの広さなんだろう、とかね。
山内:この音はどこで録ったんだろうっていうのは気になりますね。
斉藤:そうね。こういうコード進行か……、あっ、これ、バレないようにパクりたいなとかね(笑)。
山内:(笑)あと、同世代の全然聴かなくなりますね。同い年くらいの人の、カッコよかったらどうしよう、と思って(笑)。
斉藤:そうね!
山内:最近ですよね。認められるようになったの。
詩音:洋楽とかでもやっぱり同世代の方のは聴かないですか?
山内:いや、洋楽はね、なんですかね、海越えると大丈夫みたいな。
斉藤:特にタメとかだと癪で、影響受けたくないからやめとこう、みたいな。
山内:そうですねぇ、純粋に、良かったらどうしよう、っていう。
斉藤:それはあるね。
山内:斉藤さんも今でこそTHE YELLOW MONKEYの方々とか、奥田民生さんとかトータス松本さんとかの同世代のミュージシャンと仲いいですけど。当時は全然聴かなかったでしょ?
斉藤:聴かなかったし、なんかみんな避け合ってたし。会っても挨拶もしないみたいな感じで……。でも、40過ぎてジジィになったらね、もういいじゃないって感じになって、すごい仲良しに。
柴:要はライバル意識みたいなものがあるんですか?
山内:ちょっとそういうのもあるかもしれないですけどね、絶対。そうだ、僕も最近仲良しになったっていうか、話すようになったのは、レミオロメンの藤巻亮太くんとかは、まさにデビューも近くて。接点はあまりなかったんですけど、最近になって一緒にライブやったりするようになって。