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和田唱×スキマスイッチ『楽演祭VOL.3』レポート

2019年1月17日に開催された楽演祭VOL.3。今回はスキマスイッチと和田唱(TRICERATOPS)を迎えてのステージ。【音楽プロデュース】をテーマにした講義とともに、これまでとはまた違った音楽の魅力を教えてくれた。

                    取材・文:坂井彩花 撮影:コザイ リサ

プロデュースが生む新しい世界

 同じ料理なのにレシピを変えた瞬間、見違えるほど美味しくなった経験がないだろうか。同じ材料で作っていても、分量のちょっとした違いや手順の変更によって、信じられないほど味が変わったりする。きっと音楽も同じだ。同じ人が演奏していてもレシピを作る人(アレンジャー)が変われば、別のものと勘違いするほどの変化を起こす。アレンジャーももちろんだが、音楽においてそういう役割を担うのはプロデューサーではないだろうか。

 1月17日(木)、昭和音楽大学にて開催された『楽演祭 vol.3。』のテーマはプロデュース。スキマスイッチと和田唱(TRICERATOPS)を講師に迎え、日中には学生を中心とした特別授業、夜にはコラボステージありのスペシャルライブが行われた。

 二部構成の『楽演祭』は、昭和音楽大学の学生を対象とした講義からスタート。前回同様、司会には音楽ジャーナリストの柴那典氏を迎え授業とは思えぬコミカルな会話が展開された。独特なメロディーやリリックを得意とする和田唱(TRICERATOPS)と歌ものを聴かせるスキマスイッチでは接点がないように感じてしまうかもしれない。しかし実際はスキマスイッチが敬愛する全12組のアーティストをプロデューサーに迎え制作された、リアレンジ・リプロデュースアルバム『re:Action』を発売した際に、「マリンスノウ」のリアレンジ・リプロデュースをTRICERATOPSの和田唱が担当。そういった由縁から、今回のプロデュースというテーマにおいて、この二組がブッキングされたのだった。

 講義は「プロデューサーとはなんなのか」ということを国内・国外で振り返ることから始まり、和やかな雰囲気で進められる。和田が「1997年にデビューして…」と話したときには、「え、みんなまだ生まれてないの!」と驚く彼に笑いが起こった。以前まではトークのみで進められていた『楽演祭』の講義パートだが、今回からは目の前での楽器演奏も交え進められていく。
講義で実際に演奏することの良さを特に感じたのは、楽曲の解説をしたときだ。「マリンスノウ」は原曲だと2拍ごとにコードが移り変わるのだが、和田が編曲したものは8拍ごとにコードが動く。こういった内容は楽譜を見てアナリーゼすれば、誰だってわかることだろう。しかし、本人が演奏し解説をすることで、曲の温度を全身で体感すると共に自分のなかにきちんと落としこむことができるのだ。読みときで終わらない音楽理解も、『楽演祭』だからできることのひとつと言えよう。

いよいよライブ。特別な構成のスペシャルなステージ!

 そして夜はお楽しみのスペシャルコンサートへ。会場のテアトロ・ジーリオ・ショウワには1300人を超える観客が押し寄せ、3階席の端まで埋めつくした。

 ステージは和田唱のソロからスタート。「Over The Rainbow」をギターで弾きながら会場を見渡す視線はとても優しく、薄暗い照明のなかでも彼自身の光が白いシャツから溢れでていた。穏やかな空気のままソロアルバムのリードトラックである「地球 東京 僕の部屋」へと繋がれる。甘く柔らかい歌声は会場の隅々まで満ちわたり、彼が<地球 東京>と唱えるたびに天井が少しずつ広がっていくようだった。「ループペダルを使った曲を演奏します」と告げ始まったのは「矛盾」だ。ベースライン、リズム、ハーモニーと音を重ね、一人で演奏しているとは思えないほどの音楽を目の前で完成させていく。会場からは自然とクラップが沸き、演奏により厚みを与えていた。続く「アクマノスミカ」もルーパーを駆使した演奏で披露。先ほどのねっとりした雰囲気とは違い、こちらは空が開けていくようで、ルーパーを使った演奏でもいろんな表現ができるのだということを観客に示してみせた。「1975」では会場中の大合唱を巻き起こし、「Home」はピアノ演奏でしっとりと聴かせる。和田唱というアーティストがTRICERATOPSとは違う一面を持つと共に、光をそのまま具現化したような人物だと実感するパフォーマンスだった。

 スキマスイッチは「立ちたい人どれくらいいる?」と観客を煽り、会場をスタンドアップしてから封切った。オープニングを飾ったのは、語尾を荒げるように歌う大橋が色っぽい「view」。かき鳴らされるバッキングに自然と後押しされ、一気にホールが熱っぽくなる。そのまま熱いステージが続くのかと思われたが、常田のピアノが導いてきたのがしっとりしたバラードの「未来花(ミライカ)」だ。ハンマーが弦を弾くたび、グランドピアノから甘い雫がキラキラとこぼれた。静寂のなかに激情を内包した「さみしくとも明日を待つ」を演奏し、ライブハウス時代によく演奏したという「ガラナ」へ。先ほどとは一変、会場の空気は一気に軽やかになり酸素の濃度が濃くなる。間に挟まれるクラップのリズムは変則的なのに完璧で、たくさんのファンがこの日に駆けつけていたことを物語っていた。最後に演奏されたのは、彼らにとってヒットソングのひとつである「奏(かなで)」だ。常田が指を弾ませるたびオーディエンスはグッと前のめりになり、大橋の声が響くとより一層の集中力を帯びた幾多の視線がステージに注がれた。唇を噛みしめ目頭を押さえる人の数は、彼らの音楽がまっすぐ観客の心に届いていることの証明といっても過言ではないだろう。歌の力、言葉の力、音楽の力を信じているからこそ、スキマスイッチの音楽は染みいるのだと体感せざるを得ない時間だった。

 コンサートは終盤に差し掛かり、いよいよ和田唱とスキマスイッチのコラボステージへ。1曲目に選ばれたのは、講義で取り上げた「マリンスノウ」の和田アレンジバージョンだ。ねっとりと甘い和田の声と端正で柔らかい大橋の声の絡みあいは、苦悩の海で様々な大きさの泡が混ざりあうよう。普段あまり見ないレアなハーモニーが、海の色をより濃いものへと変貌させていた。この日はスキマスイッチのそれぞれと和田がコラボする演奏も披露。大橋と奏でる「Cry in The Rain」のカバーでは各々の声を溶け合わせ、常田とは「Honey Pie」ではミュージカルのようにポップな演奏を繰り広げる。どちらのステージングも偉ぶらない絶妙な先輩感で、スキマスイッチをそっと後押しする和田の姿が印象的だった。TRICERATOPSの楽曲である「if」は、この日限りのオリジナルバージョンで披露。チョーキングを活かしたソロを紡ぐ和田は妖艶で、指だけでなく顔でも弾いてる姿が印象的だった。この日のラストを飾ったのは、スキマスイッチの「全力少年」。誰もが知っている名曲の登場に、ピアノの前奏が鳴った段階で特大の拍手が響いた。みんなで口ずさみ、みんなで作りあげる「全力少年」。あの瞬間に空間を満たしていた熱量は、『楽演祭』が大成功であることを示していた。

 音楽という産業に関わらない限りは、プロデューサーがいかに大事かなんて考えないかもしれない。しかし、今回の講義やコンサートでわかったように、プロデュースは各々の魅力を新たに広げてくれる。音楽というものの楽しみかたを広げてくれるのも『楽演祭』なのだ。まだまだ続いていくこのイベントから目が離せない。

1月17日(木)【楽演祭VOL.3 SET LIST】

【第①部 和田唱】
M-1 Over The Rainbow (GTR inst.)
M-2 地球 東京 僕の部屋
M-3 矛盾
M-4 アクマノスミカ
M-5 1975
M-6 Home

【第②部 スキマスイッチ】
M-1 「view」
M-2 「未来花(ミライカ)」
M-3 「さみしくとも明日を待つ」
M-4 「ガラナ」
M-5 「奏(かなで)」


【第③部 和田唱×スキマスイッチ】
M-1 マリンスノウ<スキマスイッチ re:Action Ver.>
(スキマスイッチ/和田唱)
M-2 Crying in The Rain<The Everly Brothers Cover>
(和田/大橋)
M-3 Honey Pie 
<The Beatles Cover>
(和田/常田)
M-4 if<TRICERATOPS>
(和田唱/スキマスイッチ)
M-5 全力少年<スキマスイッチ>
(スキマスイッチ/和田唱)

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